ゴムシート防水とは?特徴とメリット・デメリットについて解説
ゴムシート防水は、マンションやビルの屋上で広く採用されている信頼性の高い防水工法です。
近年では、都心部を中心に屋上付き戸建て住宅の増加に伴い、注目度が高まっています。
従来の戸建て住宅ではFRP防水やウレタン防水が主流でしたが、ゴムシート防水には他の工法にない独自の利点があります。
本記事では、防水工事アドバイザーの福島が、ゴムシート防水の特徴や利点、適用範囲、そして他の防水工法との違いについて詳しく解説します。
建物の長寿命化を考える上で、ゴムシート防水が最適な選択肢となる可能性を探ってみましょう。
■福島 慎介
神奈川県出身 一般社団法人 防水工事推進協会 代表理事 防水アドバイザーとして12,000枚以上の見積りや防水工事を診断 お客様の立場・視点から分かりやすくお伝えします。
ゴムシート防水(加硫ゴム系シート防水)とは?
ゴムシート防水とは、建築物の屋上や地下構造物などの防水対策として用いられる工法の一つです。
主に加硫ゴム系シートを使用し、高い耐久性と柔軟性を持つ防水層を形成します。
ゴムシート防水は、ウレタン防水と比較しても対応年数が長く、ゴム系シートの特性により、優れた耐候性と柔軟性があります。
屋上や地下駐車場など、水の侵入が致命的な箇所に広く採用されています。
しかし外的な刺激による耐性に弱く、破れることがあるため、特に近年はあまり採用されません。
加硫ゴム系シートと非加硫ゴム系シートの違い
ゴムシート防水に使用されるシートには、加硫ゴム系と非加硫ゴム系の2種類があります。主な違いは以下の通りです。
- 加硫ゴム系シート
- 硫黄などを用いて化学的に分子間を結合(加硫)
- 耐久性と耐候性に優れる
- 柔軟性が高く、建物の動きに追従しやすい
- 非加硫ゴム系シート
- 加硫処理を行っていない
- 施工性が良く、接着しやすい
- 加硫ゴム系に比べて耐久性がやや劣る
加硫ゴム系シートは、長期的な耐久性が求められる場所に適しています。
一方、非加硫ゴム系シートは施工のしやすさが特徴で、比較的小規模な工事に向いています。
ゴムシート防水と塩ビシート防水との違い
ゴムシート防水と塩ビシート防水は、どちらもシート系防水工法ですが、以下のような違いがあります。
- 材質
- ゴムシート:加硫ゴム(EPDM、ブチルゴムなど)
- 塩ビシート:軟質ポリ塩化ビニル
- 耐久性
- ゴムシート:耐久年数は10~12年程度
- 塩ビシート:耐用年数は12〜18年程度
- 柔軟性
- ゴムシート:高い柔軟性、建物の動きに追従しやすい
- 塩ビシート:ゴムシートほどではないが、一定の柔軟性あり
- コスト
- ゴムシート:安価
- 塩ビシート:やや高め
採用の際は、建物や下地の状態、予算、期待する耐用年数などを考慮する必要があります。
ゴムシート防水の工法種類・耐用年数・単価表
ゴムシート防水には主に2つの工法があり、それぞれ特徴が異なります。以下の表で、工法ごとの特徴、耐用年数、単価を比較します。
工法 | 特徴 | 耐用年数 | 単価(1㎡あたり) |
---|---|---|---|
機械固定工法 | 絶縁シートを機械的に固定しシートを被せて接着 | 10〜15年 | 5,500~6,500円 |
接着工法 | 接着剤でシートを貼り付け | 10~12年 | 5,000~6,000円 |
機械固定工法の特徴と耐用年数・単価
機械固定工法は、絶縁シートを専用のビスやプレートを用いて下地に機械で固定し、その上にゴムシートを接着・熱溶着する方法です。
機械固定工法は、強風に強く、大規模な屋上に適しています。
また、下地に含まれる水分を絶縁シートと通って脱気筒より外に逃がすことができるため、雨漏りしている物件には最適な工法です。
耐用年数は通常10~15年程度で、1㎡あたりの単価は5,500~6,500円ほどです。
工事期間は短く、大面積の工事に向いているため、広い屋上の防水工事ではコスト効率が良くなる傾向があります。
接着工法の特徴と耐用年数・単価
接着工法は、専用の接着剤を用いて、ゴムシートを下地に直接貼り付ける工法です。
引張強度や伸びに優れ、下地の揺れや動きに対する追従性に優れています。
熱にも強く、耐候性が高く、柔軟性があり地震の揺れに強い工法です。
下地の水分を外に逃がすことはできないため、雨漏りしていない物件に向いています。
耐用年数は通常10~12年程度で、1㎡あたりの単価は5,000~6,000円ほどです。
施工が比較的簡単で、工期を短縮できます。
ゴムシート防水のメリット
ゴムシート防水には、以下のようなメリットがあります。
- 下地を選ばない
- 下地の揺れや亀裂に追従できる
- 仕上がりにムラが発生しにくい
- 耐久性・耐候性に優れている
- コストが低い
- 広い面積を短期間で施工できる
これらのメリットにより、ゴムシート防水は多くの建築物で採用されています
下地を選ばない
ゴムシート防水は、コンクリート、モルタル、金属など、さまざまな下地材に対応できます。
これは、ゴムシートが柔軟性を持ち、下地の微細な凹凸や動きに追従できるためです。
例えば、古い建物の改修工事でも、既存の防水層を完全に撤去せずに施工できる場合があります。
このため、工期の短縮やコスト削減にもつながります。
下地の揺れや亀裂に追従できる
建物は温度変化や地震などの揺れによって常に微細な動きを繰り返しています。
ゴムシートは高い柔軟性を持つため、これらの動きに追従し、亀裂や剥離を防ぐことができます。
例えば、地震による建物のゆがみでも、ゴムシートが伸縮して追従するため、防水性能を維持できます。
この特性により、長期間にわたって安定した防水性能を発揮します。
仕上がりにムラが発生しにくい
ゴムシート防水は、工場で生産された均一な厚みのシートを使用するため、現場での仕上がりにムラが発生しにくいという特徴があります。
これは、塗膜系の防水工法と比較した際の大きなメリットです。
例えば、ウレタン塗膜防水では、職人の技量や天候によって膜厚にばらつきが生じる可能性がありますが、ゴムシートではそのリスクが低減されます。
結果として、安定した防水性能を確保しやすくなります。
耐久性・耐候性に優れている
ゴムシート防水に使用される加硫ゴム系シートは、紫外線や酸素、オゾンなどによる劣化に強い特性を持っています。
このため、長期間にわたって性能を維持することができます。
例えば、適切に施工されたゴムシート防水は、10~12年程の耐用年数を期待できます。
また、寒暖差の激しい地域でも、温度変化による収縮や膨張に対する追従性が高いため、亀裂や剥離のリスクが低くなります。
コストが低い
ゴムシート防水は、耐久性が高いため、頻繁な補修や張り替えが必要ないことも、長期的なコスト削減につながります。
特に大規模な面積の施工では、㎡単価が他の工法と比べて低くなる傾向があります。
但し、5~8年ごとにトップコートの塗り替えが必要です。
広い面積を短期間で施工できる
ゴムシート防水は、大きなシートを使用するため、広い面積を短期間で施工することができます。
特に機械固定工法を採用した場合、施工速度が非常に速くなります。
例えば、1,000㎡の屋上であれば、天候に恵まれた場合、3〜4日程度で施工を完了できることもあります。
これは、工期の短縮や仮設費用の削減につながり、総合的なコスト削減に寄与します。
ゴムシート防水のデメリット
ゴムシート防水には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも存在します。
- 複雑な形状には施工が難しい
- 工事中に騒音と振動が発生する
- 鳥害被害を受けやすい
- 高い技術力を求められる
これらのデメリットを理解し、採用するかを考える必要があります。
特に、近年採用率が減少している要因はこれらのデメリットによるものです。
複雑な形状には施工が難しい
ゴムシートは比較的厚みがあり、柔軟性にも限度があるため、複雑な形状や細かい部分の施工が難しい場合があります。
例えば、屋上に多くの突起物や複雑な排水構造がある場合、シートの密着性が低下し、防水性能に影響を与えます。
このような場合、部分的に他の防水工法を併用したり、特殊な加工を施したシートを使用したりするなどの対策しなければなりません。
工事中に騒音と振動が発生する
特に機械固定工法を採用する場合、専用の固定具を打ち込む際に騒音と振動が発生します。
これは、病院や学校、住宅密集地など、静寂が求められる環境では問題となる可能性があります。
騒音・振動の軽減には、接着工法の採用や防音シートの使用などの対策が考えられます。
鳥害被害を受けやすい
ゴムシートは、カラスなどの鳥によって啄まれたり引っかかれたりして破れる被害(鳥害)を受けやすい傾向があります。
これは、シートの表面がやや柔らかく、鳥にとって興味を引く質感であることが原因と考えられています。
鳥害によってシートが破れると、防水性能が著しく低下して雨漏りが起こります。
高い技術力を求められる
ゴムシート防水の施工には、高度な技術と経験が必要です。
特に、シートの接合部や端部、貫通配管周りなどの処理は、防水工事専門業者の中でも技術力がある業者ではないと施工できません。
施工技術がないと、シートの接合不良や固定不良により、漏水のリスクが高まります。
シートの重ね代や接合部の処理が不適切な場合、そこから水が浸入し、雨漏りになります。
ゴムシート防水を採用するときは、信頼できる専門業者に依頼することが絶対に必要です。
技術力の不足は、短期的には目に見えない問題を引き起こし、長期的には高額な補修コストにつながる可能性があります。
ゴムシート防水が向いている場所・ケース
ゴムシート防水は、特定の場所やケースにのみ有効です。
以下に、ゴムシート防水が適している代表的な例を挙げます。
- 整形地でフラットな屋上
- 施工面積が広い場所
- 2回目以降の防水工事の場合
- シート防水の利点を取り入れつつコストを下げたい時
これらの条件に当てはまる場合、ゴムシート防水も選択肢になります。
ただし、それでも採用率は減っているので、複数の防水工事業者の意見を聞くのも良いでしょう。
整形地でフラットな屋上
ゴムシート防水は、整形地でフラットな屋上に特に適しています。
シートを大きな面積で一気に敷設できるため、施工効率が高く、接合部も最小限に抑えられるからです。
例えば、大型商業施設や工場の屋上など、広くてフラットな面積が多い建築物で多く採用されています。
フラットな屋上を持つ建築物では、ゴムシート防水の耐久性、施工性、コスト効率の良さが十分に発揮されます。
施工面積が広い場所
ゴムシート防水は、施工面積が広い場所で特に効果を発揮します。
シートを大きな面積で一度に敷設できるため、作業効率が高く、単位面積あたりの施工コストが下がります。
例えば、1,000㎡以上の大規模な屋上では、他の防水工法と比較してコスト面で優位性を持つことが多いです。
大規模な施工面積を持つ建物では、ゴムシート防水を採用することで、品質とコストの両面でメリットを得られます。
また、広い面積では、シートの接合部分を最小限に抑えられるため、漏水リスクの低減にもつながります。
2回目以降の防水工事の場合
既存の防水層の上に重ねて施工する、かぶせ工法でもゴムシートが使われることがあります。
ゴムシート防水は、既存の防水層を活かしつつ新たな防水層を形成できます。
別の防水工法で作られた防水層の上から、ゴムシートをかぶせることも少なくありません。
シートに柔軟性があり、既存の防水層の微細な凹凸や亀裂に追従できるからです。
古いアスファルト防水の上にゴムシートを重ねることで、既存の防水層を撤去せずに防水性能を回復させることができます。
2回目以降の防水工事では、工期短縮とコスト削減の観点から、ゴムシート防水は採用されることがあります。
シート防水の利点を取り入れつつコストを下げたい時
ゴムシート防水は、シート防水の利点を活かしつつ、比較的低コストで施工できる工法です。
加硫ゴム系シートは、材料の費用が安い上に、高い防水性能を発揮できます。
予算の制約がある中規模の商業施設や集合住宅などで、シート防水の品質を保ちつつコストを抑えたい場合には採用されることがあります。
シート防水における品質とコストのバランスを重視する場合、ゴムシート防水は選択肢の一つとなります。
ゴムシート防水の補修工事
ゴムシート防水も経年劣化や外的要因により、メンテナンスが必要になります。
主なメンテナンス・補修方法には以下のようなものがあります。
- シート割り増し
- トップコート
- ゴムシートの上にウレタン防水
これらの方法を実施することで、防水層の寿命を延ばし、建物を長期にわたって保護することができます。
シート割り増し
シート割り増しは、増し張りや重ね張りとも言われ、劣化や損傷が局所的な場合に有効な補修方法です。
新しいシートを既存のシートの上に重ねて接着することで、局所的な補強が可能です。
シートに小さな穴や亀裂が生じた場合、その部分だけを新しいシートで覆うことで補修できます。
シート割り増しは、部分的な補修で防水性能を回復させる効果的なメンテナンスです。
トップコート
トップコートは、ゴムシートの表面を保護し、耐候性・耐久性向上を目的とした補修方法です。
トップコート塗料をシート表面に塗布することで、紫外線や雨水からシートを守ることができます。
施工後に5〜8年程度経過したゴムシート防水に、トップコートを施すことで耐用年数を延ばすことができます。
定期的なトップコートの塗布により、ゴムシートの劣化を抑え、中長期的な防水性能の維持が可能になります。
ゴムシートの上にウレタン防水も可能
既設のゴムシート防水の上にウレタン防水を重ねて施工することが可能です。
この方法では、既存シートを撤去せずに防水性能を向上させることができます。
ただし、ウレタン防水を重ねる際は、適切な下地処理が不可欠となります。
まず、既存シートの状態を詳細に点検し、劣化箇所があれば補修をします。
さらに、シートの状態如何に関わらず、高圧洗浄による下地調整を行います。
これは、シート表面の汚れが残っていると、新規防水層との密着不良を引き起こす恐れがあるためです。
この工程を経ることで、全面改修を避けつつ、優れた防水性能を実現できます。
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ゴムシート防水の特徴とメリット・デメリットについて解説しました。
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